胎動のための組曲

「キラキラと星の市場は今夜も歌いさざめく」

川が流れているだけの灰色の街に
ぼくの毎日がゆれていた
流れには錆びた自転車が突き刺さって
その 横を毀れた木馬が漂っている

「ワルツに乗って 旋回 (まわり)はじめた
金色の乙女星　寄り添い乱舞する
白銀の王子星　腰に輝くサーベルは
光を刻んで眩いばかり」

来る日も、来る日も
川にそった小道を歩く ぼくは歩く
歩きつづけることだけが
地に立つ証だと・・・。
ある日
最後の一歩の前にカビ臭く立ちはだかる
朽ちかけた家

「二つの星を包みこむ銀界の旋律は
光の粉となって縦横無尽に飛び散った
絶対零度の銀河のステージ」

「世界の夜の人々よ　見詰めてごらんよ
巡り巡る星のロマンス」

ふとわれに蘇ったぼくは
この朽ちた家の中から
泣き叫ぶ糸のような産声を聞いた
ぼくの声が兵隊蜘蛛の巣にかかって
激しくもがいていたのだ

「さあ！　回そう！　水晶の光線を造れ！
光の経糸(たていと)は銀河をこえて八十六億年の
神の夢へ弾けとぶ」

ぼくは　辛うじて
この町にぼくの命の軽々とした証をみた
しかしこの日からも
ぼくは流れの辺を歩き続けた

「アラビアンナイトの幻影がＭ星雲に閃光し
サランの響きを弾いた時
赤いカニ星雲の仄かなランプは終曲の
胎動をゆらめかせた　星よ、星よ、星よ、」