..私がその音に出会ったのは、小学４年生のラジオつくりに熱中していた頃だった。
それは口笛に似ていて高い音から低い音まで連続的に流れる音だった。そのころ作って
いたラジオは再生式といって真空管で増幅した電波をもう一度、入り口の真空管に
もどして大きくする仕組みになっていた。その戻す量を調節するツマミがあり、それを
回し過ぎるとピュウーピュウーという不思議な音が出るのだった。だからその音が出る
ということは放送受信が上手くいっていないと言う事で、かまえて真剣に調節した。
しかし、私はその口笛のような連続音に言い表せない魅力を感じていたのだった。
そんな経験があって、その音を出す真空管式の器械、つまり低周波発振器をつくり
回転ツマミと押し釦スイッチをつけ鳴らす楽器もどきのものを作ってみた事があった。
|
 |
なんとかできあがって、たどり辿り何とか学校唱歌「ふるさと」を鳴らして喜んでいた。
やがて単純な操作と音にも飽き、その器械の事も忘れてしまっていた。そして
中学１年生（１９５６年、昭和３１年）の頃だったか、ある日、ラジオ雑誌を何気なく
見ていた時「電子楽器テルミン」の回路図というのが目に飛び込んできた。
その説明には「発明者である一ロシア人の名をとったこの楽器は、普通の楽器では
ちょっと出せない音がでる。楽器の擬音も出せるが、人の叫び声や泣き声のような音も
出せる。「テルミンは手で演奏する楽器であるが、手を直接器械に触れるのではなく、
アンテナに手を近づけたり、遠ざけたりして高さや音量を変えるようになっている」と
書かれていた。 ｅｓｓｙ目次へ
つまりその演奏スタイルは手品師や魔法使いが、なにか呪文を唱えて手を怪しく振る
ような姿である。その不思議な手の動きから美しい音楽が紡ぎだされる、というのである。
回路図を見て確かに以前、私が試作した連続可変音発振器と違って、音程を変化させるのも、
音量を制御するのも手で触れるツマミやスイッチは無いのである。
まさに雑誌の見出しのとおり、空間にかざす人間の手の動きによってきわめてデリケートな
動きにも反応した音が出るような回路であった。
その時私は、この楽器の名称にもなっている発明者「テルミン博士」については殆んど知識が
無かった。後日知った事であるが、彼がこの楽器を完成させたのは１９２０年（大正９年）
２４歳の時であったという。 （彼の生涯概略については後ほど記述したい。）
技術の歴史で観れば、１９１６年（大正５年）アメリカのKDKAが世界で初めてラジオ放送を
開始し始め、日本では１９２５年（大正１４年）３月にJOAKが試験電波を出した。
これらは、真空管の発達とともに進んだが、テルミンが電子楽器「テルミン」をロシアの
ペトログラード工科大学の電子振動研究室、主任研究員時代１９２０年（大正９年）に発明した頃、
アメリカではようやくRCA社が受信用３極真空管ＵＶ２００とＵＶ２０１を発表した実用真空管の
黎明期であった。
そんな時代、革命に揺れ動く不安定なロシアで高度な電子回路を作成出来たことが不思議な
くらいである。
しかし、私がこのような事を知ったのは最近である。好奇心にあふれていた中学生の私は、
これを何とか試作したいと思ったが、その幾つかの部品が無く、とくに当時高価だった指定の
真空管の手持ちが無かった。いつか部品が手に入ったら作ろうと思いながら長い年月が流れて
いった。 |
 |
今、私は子育ても終え孫を楽しみに迎える歳となった。生き残りにしのぎを削るサラリーマン
生活とも別れを告げゆっくりとした仕事に変った。
生活に少しの楽しみでも創ろうと知人や近しい人を集めては自宅で映画会をやり始めた。
レンタルやネット購入でのＤＶＤ映画をみんなでワイワイ言いながら観る。一つの物語を
みんなで共有して楽しむと言うのは、ひとりでＴＶなどを見るのとは違った楽しみがある
ことを発見したのである。
そんなある日レンタル・ビデオ店の棚に見つけたのが、「テルミン」というＤＶＤビデオだった。
その名を見た時一瞬、私の心に懐かしいオーラが沸き起こった、それは５０年前のあのラジオ雑誌の
テルミン回路図だった。
すぐさまそのビデオを借りて帰り観た。そうして・・そこに描かれた物語はテルミン発明者の
ソビエトという怒涛の社会主義革命の歴史の中で、翻弄され続けた壮絶な運命だった。
電子技術の中に夢を求めた若きロシア青年の上に斯くもどす黒い権力の横暴はなんだったのだ。
彼の目指したものは人間の生活の美しい夢として役立つ技術だったはずだ、政治の欲望の道具に
アクドイ目的のために、９７年間もの長きに渡りすり替えられ続けた人生の悲しさを慰める言葉も
無かった。
ｅｓｓｙ目次へ
彼、レフ・セルゲイビッチ・テルミンの詳しい伝記については、是非次の書を読んで頂きたい。
（テルミン／エーテル音楽と２０世紀ロシアを生きた男／竹内正実著２０００年８月岳陽舎発行）
彼の伝記の詳細はこの書に譲るとして、いま読者のために前記書籍から概略を引用してみよう。
１８９６年（明治２８年）８／２８帝政ロシアのサンクト・ペテルブルグに生まれる。父は法律家母は主婦。
１９０５年（明治３８年）９歳、同市のサンクト・ペテルブルグ第１男子古典ギムナジュウムに入学。
１９２１年（明治４４年）１６歳ギムナジュウムで公開の物理実験を行う。（テスラコイルによる
........................高圧高周波電流の放電現象）
１９１４年（大正３年）１８歳、第１次世界大戦始まる。露は独と交戦。のサンクト・ペテルブルグ
......................からサンクト/ペテルグラードへ都市名称変更・ペテルグラード大学に入学
......................（物理・天文学専攻）また、ペテル・グラード音楽院チェロ科にも入学。
１９１６年（大正５年）２０歳その後、優れた電子技術に目を付けられ、高等軍事専門学校へ送られ、
......................軍事技術士の資格を取得、少尉の位を得る。
１９１７年（大正６年）２１歳、第１無線大隊に軍事技術士として配属される。２月、第２次ロシア革命
......................の勃発によりテルミンは赤軍（レフ・トロツキー他指導）に所属１０月革命で
.......................ボリシェビキイ、政権掌握。
１９１８年（大正７年）２２歳、モスクワの無線技術研究所開設の任に着く無線送信所の主任も兼務。
.....................ここで後年、楽器「テルミン」の発明につながる無線機のノイズ現象に気付く。
１９１９年（大正８年）２３歳、白軍の内戦総攻撃で上記送信所破壊される。第１次大戦からの相次ぐ
......................戦争で国民の疲弊は極度に高まった。
１９２０年２４歳（大正９年）白軍消滅、内戦の終結。物理学者ヨッフムの招きにより科学アカデミー
.......................直属の研究機関・ペトログラード物理工科大学に奉職。電子振動研究室の主任
.......................研究員となる。研究過程で新しい電子楽器創造と開発を開始。１０月ついに、
.......................新楽器「テルミン」完成ヨッフムの前でデモ演奏。１１月さらに回路と演奏技術
.......................を改良し、同学内の夜会で披露し講堂にその音色が響き渡った。
１９２１年（大正１０年）２５歳、１０月レーニン提唱の「ロシア電化委員会」中の第８回電子技術会議
.......................（モスクワ）で世界初の電子楽器「テルミン」が公開された。政府機関紙「
........................イズベスチャ」にテルミン・ボックス（別名:エーテル・ホン）と命名され掲載
.........................発表された。テルミンは同７月に「陰極管による音響装置」と命名し特許申請し、
........................１９２４年８月受理登録されている。この年（２５歳）、医科大学生だった、
........................アレクサンドル・エカテリーナと結婚。
ｅｓｓｙ目次へ
１９２２年（大正１１年）２６歳、ソビエト連邦成立。３月、前年の「テルミン」演奏の成功を知っていた
........................レーニンは彼を、クレムリンに招待した、この時、テルミンはレーニンの音楽への
........................深い造詣と科学的思想と人間的優しさに触れ心から心酔した。そしてテルミンの
........................レーニンへの尊敬と畏敬の念は決定的なものとなった。後テルミンを翻弄する
........................ソビエト政治権力に対して驚くべき従順無私な彼の態度の源となったと思われる。
......................対面の２ケ月後レーニンは脳梗塞で倒れた。スターリンが党書記長に就任。
........................テルミン以後３年間の間に１５０回以上の「テルミン」コンサートや講演を
........................行った。
１９２４年（大正１３年）２８歳、１月レーニン死去。レーニンを尊敬していたテルミンはこの時真剣に
........................彼の遺体の冷凍保存を進言しようとしていた。作曲家パシシェンコによる
.......................「テルミン」とオーケストラのための協奏曲がレニングラード・シンホニー
.......................フォールで初演された。この年半年間ドイツへ出張。
１９２５年（大正１４年）２９歳、ヨッフムの勧めでレニングラード工業技術大学に入学、研究テーマは
.......................ＴＶシステムで１９２６年には１．５㎡のスクリーンに走査線100本の当時としては
.......................画期的なＴＶシステムを完成した。（注：日本では１９２６年大正１５年に
.......................高柳健次郎博士が走査線４０本のＴＶ伝送に成功している）
１９２７年昭和２年３１歳、教育人民委員部の決定によりフランクフルト開催の世界音楽博覧会に派遣される。
......................その後ベルリン・ドレスデンなどドイツ主要都市でのコンサートで「テルミン」
......................演奏に出演この時アインシュタインと知り合い以後深い友情で結ばれた。１２月
......................パリオペラ座での演奏会では詰めかけた聴衆で大混乱になるほどの人気を得た。
.............この間、師ヨッフムはアメリカに滞在中ＲＣＡビクター社との間に「テルミン」のライセンス
...............契約を締結し２０００台が製造される事となった。ソ連教育人民部の決定により、テルミンは
...............妻エカテリーナとともにアメリカ出張を命ぜられる。
.............この出張の表向きは、ＲＣＡ社との契約履行だったが、テルミンの科学者としての知識を
...............生かした諜報活動をＯＧＰＵ（国家政治保安部）より密かに命じられていた。１２月妻と
...............伴に渡米。
ｅｓｓｙ目次へ
１９２８年昭和３年３２歳、１月ニューヨークメトロポリタンオペラ座で「エーテル音楽コンサート」と
......................題された公演開始。渡米活動中、演奏会を訪れた著名人は、クライスラー・ラフマ
......................ニノフ・トスカニーニ・ロックフェラー・デュポン・チャップリン（彼は「テルミン」
......................を２台発注）。
................マンハッタン西５丁目３７にビルを借り「テレタッチ・コーポレーション」
..................（「テルミン」や警報装置製造会社）を創設。２月「テルミン」の米国特許を取得。
..................後の天才的テルミニストとなる、クララ・ロックモア嬢と知り合う。
演奏するテルミン ３１歳 頃 |
1928年32才頃「ﾃﾙﾐﾝ」内部を説明する |
１９２２年昭和４年３３歳、米、大恐慌。秀でたテルミニスト誕生。上記クララとルーシー・ローゼン等。
１９３０年昭和５年３４歳、妻エカテリーナと離婚。毎週１回ニューヨークのレストランでのソ連諜報員
..........................との密会開始。
１９３１年昭和６年３５歳、日本に初めて「テルミン」紹介される。ＲＣＡ社「テルミン」から撤退。
.........................スターリン時代の大粛清始まる、ピークは‘３６～３８年で処刑や強制労働で
.........................１２００万人もの人間が粛清された。
１９３３年昭和８年３７歳、ナチスが政権取得。１９３６年昭和１１年４０歳、スペイン内戦勃発、
.......................日本中国大陸侵略開始。この頃テルミンは密かに帰国をソ連全権代表部に打診して
.......................いた。
１９３７年昭和１２年４１歳、「テルミン」の姉妹機「テルプシトン」の優れた黒人ダンサー、
.......................ラヴィーナ・ウイリアムスとの結婚を決意、ソ連全権代表部に届けた。
........................部からは拒否の連絡も無く受理されていた。
ｅｓｓｙ目次へ
１９３８年昭和１３年４２歳、テルミンはマンハッタンから突如失踪。今日謎の失踪原因として次の
........................２つが挙げられている。
...................①ＮＫＶＤ（内務省人民部、後のＫＧＢ）の指示により本国に強制連行された。
...................②テルミン自身が進んでソ連政府の協力のもと秘密出国した。後日テルミン自身は少し
...................事実と異なるが②を肯定する発言をしているという。この時、
...................ラヴィーナ・ウイリアムスとの結婚は許されず、彼女の入国は拒否された。
...................ラヴィーナ・ウイリアムスとの１年足らずの結婚生活は２人の意を突き放し、
...................突如閉ざされた。１２月頃２週間の船旅の後レニングラード港に到着。３日間船中で
...................拘束の後開放され、自らレニングラード物理工科大学へ帰国報告のため赴いた。
...................その後帰国報告のためモスクワへ向かった。
１９３９年昭和１４年４３歳、３月帰国報告のため滞在していたモスクワのホテルに政府の代理者
..................（ＮＫＶＤ）が訪れテルミンは逮捕され、未決監獄へ収容された。以後ここで５ケ月
...................に渡る尋問が続いた。８月尋問の結果、反革命組織への加盟の嫌疑で８年間の
...................矯正労働収容所送致が決定された。極寒マイナス６０度の気温を示すソ連最果て
...................の流刑地、シベリア北東部のコリマであった。嫌疑はスターリン圧政下の暗黒の状況の
...................中で先に離婚した妻エカテリーナの恋人がファシスト団体員で彼女もそこに加盟して
...................いた事であった。
...................以後１９４７年昭和２２年５１歳、６月の刑期満了の日まで各地・各組織の刑務所や
...................特殊収容所を転々と配流された。そこでも彼はその電子技術の学識をソビエト政治の
...................道具として利用され続けた。
...................ただ彼自身は政治に興味は無く、科学研究に従事できればそれを苦にしない生き方
...................だったのが唯一の救いであった。刑期満了後もＭＧＢ（ＫＧＢ）の密かな監視を受け
...................つつ引き続きモスクワのクチノ研究所（秘密研究所）の主任研究員として仕事を
...................つづけた。
ｅｓｓｙ目次へ
...................ここでも彼は特殊マイクロ波照射・反射型盗聴器「ブラン」を発明し、スターリン賞
...................を受けている。６月彼は、５１歳にして２６歳のマリヤ・グーシナと３度目の結婚を
...................した。
１９４８年昭和２３年５２歳、マリアとの間に双子の女の子、エレーナとナターリアが誕生。
１９５１年昭和２６年５５歳、依然としてＭＧＢ（ＫＧＢ）の監視は続く。
１９５３年昭和２８年５７歳、この年スターリン死去、
１９５６年昭和３１年６０歳、この年、テルミンの名誉回復措置が図られる。東西冷戦の雪解け始まる。
１９６０年昭和３５年６４歳、年金受給年齢に達したのを機に秘密研究所を辞職。
１９６４年昭和３９年６８歳、モスクワ音楽院の音響研究所員として働き始める。テルミンも講義等を行う。
......................彼の唯一の本「物理学と音楽芸術」を上梓する。
１９６７年昭和４２年７１歳、再び運命が一変する事件発生。「ニューヨークタイムス」モスクワ局員が
.......................存命していたテルミンを発見、世界にテルミンが健在であるスクープを発表。
.......................西側では１９３８年マンハッタンから失踪した世界初の電子楽器の発明家・演奏家
.......................テルミンは鉄のカーテンの中ですでに死亡していると思われていた。
.......................この報道が、折角安泰な日々を送り始めた彼の生活を破壊し始めた。
.................モスクワ音楽院の首脳部は、ＫＧＢの監視を緩められたとは言え国家の軍事機密にかかわり
.................不透明な経歴を持つが、すでに死亡したと思われていた人間が存命していたと西側に知れた
.................事を恐れた。即刻音楽院の研究室や開発中の新型楽器などすべてが処分され、彼は音楽院
.................から追放された。
ｅｓｓｙ目次へ
.................しかし、彼を尊敬していた地域の人民代表議員であり、ソ連邦英雄であり、女性ファシスト
.................委員でもあったゲイ・ゾーリンに救われ彼女の奔走で、かろうじてモスクワ大学物理学部
.................音響研究室の助手の職を得た。
１９７０年昭和４５年７４歳、妻マリヤ４５歳死亡、そして２人の娘とも折り合いが悪く、夜の１０時以前に
......................... 帰宅する事は無い生活だった。
１９７３年昭和４８年７７歳、モスクワ大学でのテルミンは年金だけでは食えない哀れな老技師の一人に過ぎ
..........................なかった。
１９８５年昭和６０年８９歳、ゴルバチョフ登場により、暗黒のソ連は生まれ変わろうとしていた、西欧諸国
..........................との関係は開放的になり、西欧では数十年も昔に開発された電子楽器の原型
..........................「テルミン」に再び熱い目が注がれていた。発展した現代デジタル電子楽器では
..........................得られない強烈な独自性を持った音色に脚光が蘇っていた。すなわち、「操作は
..........................単純であるが、制御はきわめて難しい」という楽器の性格が見直されたのだった。
１９８９年平成元年９３歳、フランスのブルージュで開催された「電子音楽フェスティバル」に娘のナターリア
..........................に付き添われて参加、彼女と伴にテルミン自身による「テルミン」演奏が行われた。..........................ブルージュ市はテルミンに名誉市民の称号を贈って讃えた。
１９９０年平成２年９４歳、ストックホルムの音楽祭典に招かれた。 ｅｓｓｙ目次へ
１９９１年平成３年９５歳、９月、私の見たＤＶＤの元のテルミン・ドキュメント映画制作者の
..........................スティーブ・マーティン監督に招待され、米、スタンフォード大学開校１００周年
..........................記念フェスティバルに参加。同、１０月４日に開催された、野外コンサートでは
..........................１５００人の聴衆の前で９５歳の震える手をかざし「モスクワ郊外の夕べ」が演奏
..........................され聞く人々の心を深く打った。会場には、ロバート・モーグ／ドン・ブラック／
..........................ロジャー・リン／トム・オーバーハイム／等の電子楽器発展の立役者たちが駆けつけ
..........................電子楽器・電子音楽の創始者の功績を讃えた。
１９９１年１２月ＣＩＳが創設され、２５日ソビエト連邦は８５年の幕を閉じ解体した。
| １９９３年平成５年97歳、 |
.先のスティーブ・マーティン監督の「テルミン・エレクトロニック・オデッセィ」が１１月２日イギリスのテレビで公開された翌日、１１月３日テルミンはその９７年の生涯をを閉じた。彼の葬儀は近親者のみで密かに行われたと言う。
その後、娘のエレーナが乏しい稼ぎをはたいて、偉大な父テルミンのささやかな墓標を建てたという。彼は、１９９０年ソ連崩壊の１年前、人々から見放されていったソビエト共産党に入党申請をし受理され晴れて９４歳で共産党員となった。
この不可解な行動について「これは私のレーニンへの約束だったと」友人に語ったと言う。ロシア革命の初々しい時代理想に近い新芽の純粋な思想に対する時代を開いたレーニンへの純粋な科学者テルミンの熱いエールであったと、私は思う。 |
1995年ﾆｭｰﾖｰｸにて 95才 |
.............いかに共産主義の思想が人類の幸福を純粋に目指して生まれたとしてもそれを使うのは奇怪な
.............生物の人間である。彼らはその心に魔と清純を併せ持つ総合生物であり、決して理想のみには
.............生き続けることは出来ない事を８５年の社会科学の実験は暴露した。
.............そして人類は何かを学んだのだろうか・・・答えは無い。しかし、この巨大な実験の過程に殺戮
..............された幾千万の人間がいた事は覆い隠せぬ真実だった。
ｅｓｓｙ目次へ
...........その中の一人がテルミンであったことを私たちは決して忘れてはいけないと思う。
...........私は音楽が好きであるが自分で演奏できる楽器は無い。ただハーモニカだけは小さい頃から
.............よく吹いていた。 しかし楽譜とのつながりはいまだに無い。いわゆる耳コピーと言うもので、
.............興味ある曲に出会った時は何回も 何回も聞き、覚えてしまうと不思議に、ハーモニカは歌い
.............だす。今、私は、この体で覚えて楽を奏でる「テルミン」を手に入れた、テルミンを讃えたあの
.............シンセサイザーの発明者モーグが心を込めて作った大衆版「モーグ・テルミン」である。
.............いつの日か私も、テルミニストになれる日を夢見つつ天空に眠るテルミンを思いつつ
.............楽器に向かう・・。
..................................本稿は、 九州・近畿合同文芸アンソロジー 「竹の花」第８号 ２００７年１月１０日発行 に発表
|
